ハミルトン・ヤコビ方程式とはなんなのか

こんにちは、管理人のturtleです。
本稿はあくまで管理人の備忘録として書いておりますが、解析力学を学びたい読者ならだれでも理解できる形を目指しております。本稿はこちらの子記事となっておりますので、よければ合わせてご覧ください。
では、いきなりハミルトン・ヤコビ方程式の話をする前に、正準変換の復習からしていきます。

正準変換についてのくわしいことは、こちらの記事に書いてあるのですが、ここでは概要だけ触れます。

ラグランジュ形式からハミルトン形式に移る過程で、大きく変わったこととして、”位置座標\(\boldsymbol{q}\)と運動量座標\(\boldsymbol{p}\)が完全に対等な独立変数になったこと”がありました。そこで、この対等性を利用して「\(\boldsymbol{q}\)と\(\boldsymbol{p}\)をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせて、計算が楽になるような、全く新しい架空の位置\(\boldsymbol{Q}\)と運動量\(\boldsymbol{P}\)を作り出す変換」をすることを思いつきます。

定義1.1(正準変換の定義)
変数\((\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p})\)から変数\(\Big(\boldsymbol{Q}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}), \boldsymbol{P}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}) \Big)\)への座標変換であって、\(i=1,2,…,N\)に対して正準方程式
$$
\dot{Q}_i = \frac{\partial K}{\partial P_i}, \qquad \dot{P}_i = -\frac{\partial K}{\partial Q_i}
$$を成り立たせるような新しいハミルトニアン\(K(\boldsymbol{Q}, \boldsymbol{P}, t)\)が存在する座標変換を、正準変換と定義する。

では、実際の正準変換をパターン化していきましょう。正準変換をしたときに、独立な文字と従属な文字について注目してみます。例えば、恒等変換\(\boldsymbol{Q}=\boldsymbol{q},\quad \boldsymbol{P}=\boldsymbol{p}\)みたいに、新しい位置座標\(\boldsymbol{Q}\)がもとの運動量座標\(\boldsymbol{p}\)に全く依存していないとき、\(\boldsymbol{q}\)と\(\boldsymbol{Q}\)は従属であって、\(\boldsymbol{p}\)と\(\boldsymbol{Q}\)は独立ですよね。
こういうふうにみていくと、どんな正準変換\((\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}) \rightarrow \Big(\boldsymbol{Q}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}), \boldsymbol{P}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}) \Big)\)も、

(Ⅰ) \(\boldsymbol{q}\)と\(\boldsymbol{Q}\)が独立な正準変換
(Ⅱ) \(\boldsymbol{q}\)と\(\boldsymbol{P}\)が独立な正準変換
(Ⅲ) \(\boldsymbol{p}\)と\(\boldsymbol{Q}\)が独立な正準変換
(Ⅳ) \(\boldsymbol{p}\)と\(\boldsymbol{P}\)が独立な正準変換

のうち、少なくとも2つにはあてはまるわけです。今回は(Ⅱ)をおもに使うので、これについて成り立つ次の定理を紹介しておきます。

定理1.2
次の(Ⅰ)と(Ⅱ)は同値である。
(Ⅰ) 座標変換\((\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}) \rightarrow \Big(\boldsymbol{Q}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}), \boldsymbol{P}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}) \Big)\)は、ハミルトニアンを\(H(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}, t)\)から\(K(\boldsymbol{Q}, \boldsymbol{P}, t)\)に移す正準変換であって、\(\boldsymbol{q}\)と\(\boldsymbol{P}\)は独立である。
(Ⅱ) \(i=1,2,…,N\)に対して、次を満たす関数\(W(\boldsymbol{q},\boldsymbol{P},t)\)が存在する。
$$
p_i= \frac{\partial W}{\partial q_i} \qquad Q_i= \frac{\partial W}{\partial P_i} \qquad K = H + \frac{\partial W}{\partial t}
$$

さて、本稿ではここまで理解しておけば大丈夫です!ここからはハミルトン・ヤコビ方程式の話をしていきますよ。

ハミルトン・ヤコビ方程式と聞くと難しそうですが、モチベーションは非常にシンプルなもので、

新しい座標系\((\boldsymbol{Q},\boldsymbol{P})\)では、物体が完全に止まっているような、都合のいい正準変換はないだろうか

というものです。そもそも正準変換\((\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}) \to (\boldsymbol{Q}, \boldsymbol{P})\)を行う最大の動機は、複雑な運動をシンプルな運動に変換することで、仰々しい微分方程式を解かずとも問題が解けるようにしたい、というものでした。では、一番シンプルな運動とはなんでしょうか。それは「静止」ですよね。

もし、新しい座標系において物体が静止しているならば、新しいハミルトニアン\(K\)は変数\(Q\)や \(P\)に一切依存しません。そうすると、新しい座標系でのハミルトンの正準方程式は
$$
\dot{Q}_i = \frac{\partial K}{\partial P_i} = 0 \qquad \dot{P}_i = -\frac{\partial K}{\partial Q_i} = 0
$$となり、新しい位置\(Q_i\)も新しい運動量\(P_i\)も、時間が経っても一切変化しない完全な定数になります。
ハミルトン・ヤコビ方程式とは、新しいハミルトニアン\(K\)として変数\(Q\)や\(P\)に一切依存しない式が選ばれるような正準変換を探そうよ、という話で、これは言い換えると、運動の複雑さを「座標変換の式」の中に押し込んでしまうということでもあるんですね。

ハミルトン・ヤコビ方程式を考えるときは、変数\(Q\)や\(P\)に一切依存しない新しいハミルトニアン\(K\)として、最も簡単なゼロを使います。先に定理1.2として、

定理1.2(再掲)
次の(Ⅰ)と(Ⅱ)は同値である。
(Ⅰ) 座標変換\((\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}) \rightarrow \Big(\boldsymbol{Q}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}), \boldsymbol{P}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}) \Big)\)は、ハミルトニアンを\(H(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}, t)\)から\(K(\boldsymbol{Q}, \boldsymbol{P}, t)\)に移す正準変換であって、\(\boldsymbol{q}\)と\(\boldsymbol{P}\)は独立である。
(Ⅱ) \(i=1,2,…,N\)に対して、次を満たす関数\(W(\boldsymbol{q},\boldsymbol{P},t)\)が存在する。
$$
p_i= \frac{\partial W}{\partial q_i} \qquad Q_i= \frac{\partial W}{\partial P_i} \qquad K = H + \frac{\partial W}{\partial t}
$$

が成り立つことを話しました。この\(K\)がゼロになるような座標変換\((\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}) \rightarrow \Big(\boldsymbol{Q}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}), \boldsymbol{P}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}) \Big)\)を探す方法を考えるわけですが、それは次の定理をみると解決します。

定理2.1(ハミルトン・ヤコビ方程式)
力学系の一般化座標を\(\boldsymbol{q}=(q_1,q_2,…,q_N)\)、一般化運動量を\(\boldsymbol{p}=(p_1,p_2,…,p_N)\)、系に対応するハミルトニアンを\(H(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p},t)\)、以下の1階非線形偏微分方程式
$$
H(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p},t) \Big|_{\boldsymbol{p}=\nabla_{\boldsymbol{q}}S} = -\frac{\partial S}{\partial t}
$$の解に含まれる独立な\(N\)個の積分定数を\(\{P_i\}_{i=1}^N\)、その解を\(S(\boldsymbol{q},\boldsymbol{P},t)\)とかくこととする。
このとき、\(p_i = \partial S(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{P}, t)/\partial q_i\)により関数\(\boldsymbol{P}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p})\)の表式を定めるならば、\(N\)個の量\(\{\partial S/\partial P_i\}_{i=1}^N\)は時間変化しない定数である。

定理2.1の証明

\(Q_i= \partial S/\partial P_i, K=0\)とすると、1階非線形偏微分方程式の解\(S(\boldsymbol{q},\boldsymbol{P},t)\)に対し、
$$
p_i= \frac{\partial S}{\partial q_i} \qquad Q_i= \frac{\partial S}{\partial P_i} \qquad K =0= H + \frac{\partial S}{\partial t}
$$が成り立つので、定理1.2の(Ⅱ)→(Ⅰ)より、変換\((\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}) \rightarrow \Big(\boldsymbol{Q}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}), \boldsymbol{P}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}) \Big)\)は正準変換である。よって、
$$
\dot{Q}_i = \frac{\partial K}{\partial P_i} = 0 \qquad \dot{P}_i = -\frac{\partial K}{\partial Q_i} = 0
$$であるから、\(Q_i =\partial S/\partial P_i\)は時間変化しない定数であるとして示された。

この定理のようにしてつくった変換\((\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}) \rightarrow \Big(\boldsymbol{Q}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}), \boldsymbol{P}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}) \Big)\)が、欲しがっていた、新しいハミルトニアン\(K\)がゼロになる変換です。そしてこの定理こそが、ラグランジュ形式、ハミルトン形式に次ぐ、解析力学の新たな形式「ハミルトン・ヤコビ方程式」に他なりません。

実は本稿で大事なことは定理2.1に詰まっているので、本題は終わってしまったのですが、ハミルトン・ヤコビ方程式が他の解析力学の形式に比べて、優れている箇所をいくつかあげてみます。その一つには、

連立常微分方程式から、単一の偏微分方程式へ帰着できること

があります。ハミルトンの正準方程式は、未知の関数\(q_i, p_i\)に対する\(2N\)個の連立常微分方程式でしたので、変数が多くなると直接解くのが困難になります。その点、ハミルトン・ヤコビ方程式は、これを未知の関数\(S\)に対するたった1つの偏微分方程式に置き換えられますから、問題を代数的に処理しやすいという特徴がありますね。また、

解く過程で、エネルギーや角運動量など、系の重要な保存量を発見しやすいこと

も強みの一つです。複雑な系の中から時間変化しない定数を機械的に抽出できるためですね。

では最後に、ハミルトン・ヤコビ方程式の使い方を見ていきましょう。手順としては、

  1. ハミルトニアン\(H(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}, t)\)を記述する。
  2. 1階非線形偏微分方程式(ハミルトン・ヤコビ方程式)
    $$
    H(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p},t) \Big|_{\boldsymbol{p}=\nabla{\boldsymbol{q}}S} = -\frac{\partial S}{\partial t}
    $$の解に含まれる独立な\(N\)個の積分定数を\(\{P_i\}_{i=1}^N\)として、完全解\(S(\boldsymbol{q},\boldsymbol{P},t)\)を求める。
  3. 新しい座標\(Q_i= \partial S/\partial P_i\)は時間変化しない定数になるため、\(N\)本の式
    $$
    Q_i = \frac{\partial S(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{P}, t)}{\partial P_i} \quad (i=1,2,…,N)
    $$はもはや微分方程式ではなく、\( \{ q_i \}_{i=1}^N \), 定数\( \{ P_i \}_{i=1}^N \), 定数\( \{ Q_i \}_{i=1}^N \), \(t\)を結ぶ単なる代数方程式であるので、これを元の座標\( \{ q_i \}_{i=1}^N \)について解くことで、時間\(t\)の関数としての軌跡\(q_i(t)\)が得られる。

    というような感じです。では最も単純な、力が全く働かない1次元空間上の粒子の運動を例にします。

    質量が\(m\)の自由粒子を考えて、この変位を\(q\)、対応する運動量を\(p\)とすると、ハミルトニアン\(H(q,p)\)は\(H(q, p) = p^2/2m\)となります。これより、ハミルトン・ヤコビ方程式は
    $$
    \frac{1}{2m}\left(\frac{\partial S}{\partial q}\right)^2 + \frac{\partial S}{\partial t} = 0
    $$とかけ、ここでは解く過程は本題ではないので省略しますが、完全解は\(S(q, P, t) = \sqrt{2mP}q – Pt\)とかけます(ただし\(P\)は積分定数とする)。さて、この解\(S(q,P,t)\)を\(P\)で偏微分した量
    $$
    Q = \frac{\partial S}{\partial P} = \frac{\partial}{\partial P}\left(\sqrt{2mP}q – Pt\right) = \sqrt{\frac{m}{2P}}q – t
    $$は定数でありますから、\(q\)について逆に解くと、
    $$
    q(t) = \sqrt{\frac{2P}{m}} (t + Q) \qquad \text{(\(Q,P\)は初期条件で決まる定数とする)}
    $$となりますが、これは等速直線運動の解\(q(t) = vt + q_0\)にほかなりませんね。

    実際に使うのはこんな感じです!
    もっと複雑な問題で例を見たい方は、こちらの第4章の2節をご覧ください。


    以上、ハミルトン・ヤコビ方程式を整理してみました。お疲れさまでした。

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