こんにちは、turtleです。現在電磁気学を学んでおりまして、その備忘録のような形でこのブログを書かせていただいております。基本的に大学の内容となっていますが、数式さえ乗り越えれば高校生でも理解できると思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。
本稿で出てくる物理量の定義
・電場\(\mathbf{E}\) ; 電荷\(q\)が電気的に力\(\mathbf{F}\)を受けるとき、\(\mathbf{E} = \frac{\mathbf{F}}{q}\)として与えられる、空間の各位置がもつ性質。
・電位\(\phi\) ; 単位電荷を、考えている位置から基準点まで運ぶとき、電気的になされる仕事。
・電束 ; 電荷からその電荷の量だけ出る仮想の線。
・電束密度\(\mathbf{D}\) ; 空間の各位置における電束の密度。
・磁場\(\mathbf{H}\) ; 磁極\(m\)が磁気的に力\(\mathbf{F}\)を受けるとき、\(\mathbf{H} = \frac{\mathbf{F}}{m}\)として与えられる、空間の各位置がもつ性質。
・磁束 ; 磁荷からその磁荷の量だけ出る仮想の線。
・磁束密度\(\mathbf{B}\) ; 空間の各位置における磁束の密度。
・電荷分布\(\rho\) ; その位置での電荷分布を示す。
・電流\(\mathbf{i}\) ; 正電荷の流れる方向を向き、単位時間あたりに通過する電荷量を大きさとするベクトル量。
・電流密度\(\mathbf{J}\) ; 正電荷の流れる方向を向き、単位面積あたりに流れる電流の量を大きさとするベクトル量。
この記事の目次
▶ 電磁気学概観
▶ 分極
▶ 誘電率
・①ポアソンの方程式ー誘電率が位置によって異なるときのポアソンの方程式
・②導体ー誘電率が無限とみなせる物質
・③境界条件ーポアソンの方程式で必要な境界条件
・本稿の最終的な結論
▶ 総括
電磁気学概観
高校での電磁気学は、法則性の読めないたくさんの公式をこねくり回していました。しかし実は、電磁気学全体の現象は、分極の生じない自由空間において成立する以下の4式で理論的にすべて説明されうることがわかっています。これらは一般に、マクスウェル方程式とよばれています。
$$
\left\{
\begin{aligned}
&\nabla \cdot \mathbf{E} = \frac{\rho}{\epsilon_0} \\
&\nabla \cdot \mathbf{B} = 0 \\
&\nabla \times \mathbf{E} = – \frac{\partial \mathbf{B}}{\partial t} \\
&\nabla \times \mathbf{H} = \mathbf{J} + \frac{\partial \mathbf{D}}{\partial t}
\end{aligned}
\right.
$$
前稿ではここから、とくに分極の生じない自由空間中で空間に静電場のみ形成されているとき(つまり、静止した電荷分布が形成されているとき)について詳しく考えました。その結果は以下のようになりましたね。
前稿の最終的な結論
分極の生じない自由空間において空間中の電荷分布と必要な条件がわかっているとき、
$$
\left\{
\begin{aligned}
&- \nabla^2 {\phi}(\mathbf{r}) = \frac{\rho(\mathbf{r})}{\epsilon_0} \\
&\mathbf{E}(\mathbf{r}) = – \nabla {\phi(\mathbf{r})}
\end{aligned}
\right.
$$を解いて求めた空間中の静電場と、クーロンの法則を用いて求めた空間中の静電場
$$
\mathbf{E(\mathbf{r})}=\displaystyle \int_{V’} \frac{\rho(\mathbf{r’})dV’}{4\pi\epsilon} \frac{\mathbf{r}-\mathbf{r’}}{|\mathbf{r}-\mathbf{r’}|^3}
$$は等しくなる。
追加として、ポアソンの方程式に関して、解を求めるときに役立つ重ね合わせの原理があるのでこれも重ねて紹介しておく。
電荷分布\(\rho_1(\mathbf{r})\)と条件\(C_1\)に対するポアソンの方程式の解を\(\phi_1(\mathbf{r})\)、電荷分布\(\rho_2(\mathbf{r})\)と条件\(C_2\)に対するポアソンの方程式の解を\(\phi_2(\mathbf{r})\)とすると、電荷分布\(\rho_1(\mathbf{r})+\rho_2(\mathbf{r})\)と条件\(C_1+C_2\)に対するポアソンの方程式の解は\(\phi(\mathbf{r})=\phi_1(\mathbf{r})+\phi_2(\mathbf{r})\)である。
ただし、たとえば、条件\(C_1\)が”各点で\(\phi_1(\mathbf{r})\)が連続で位置\(r_0\)において\(\phi_1(\mathbf{r}_0)=a_1\)”、条件\(C_2\)が”各点で\(\phi_2(\mathbf{r})\)が連続で位置\(r_0\)において\(\phi_2(\mathbf{r}_0)=a_2\)”であるとき、条件\(C_1+C_2\)は”各点で\(\phi(\mathbf{r})\)が連続で位置\(r_0\)において\(\phi(\mathbf{r}_0)=a_1+a_2\)”のように、条件\(C_1+C_2\)は各条件の和に対応する条件である。
電荷分布\(\rho_1(\mathbf{r})\)と条件\(C_1\)に対するポアソンの方程式の解を\(\phi_1(\mathbf{r})\)、電荷分布\(\rho_2(\mathbf{r})\)と条件\(C_2\)に対するポアソンの方程式の解を\(\phi_2(\mathbf{r})\)とすると、電荷分布\(\rho_1(\mathbf{r})+\rho_2(\mathbf{r})\)と条件\(C_1+C_2\)に対するポアソンの方程式の解は\(\phi(\mathbf{r})=\phi_1(\mathbf{r})+\phi_2(\mathbf{r})\)であることを示す。
はじめの仮定より、ポアソンの方程式について
$$
-\nabla^2 \phi_1(\mathbf{r}) = \frac{\rho_1(\mathbf{r})}{\epsilon_0} , -\nabla^2 \phi_2(\mathbf{r}) = \frac{\rho_2(\mathbf{r})}{\epsilon_0}
$$が成り立つ。式の両辺を足すと、
$$
-\nabla^2 [\phi_1(\mathbf{r})+\phi_2(\mathbf{r})] = \frac{[\rho_1(\mathbf{r})+\rho_2(\mathbf{r})]}{\epsilon_0}
$$であるので、\(\phi(\mathbf{r})=\phi_1(\mathbf{r})+\phi_2(\mathbf{r})\)はたしかに\(\rho_1(\mathbf{r})+\rho_2(\mathbf{r})\)に対する一つのポアソンの方程式の解である。さらに条件もそれぞれ考えてみると(そこまで難しくないので省略、ポアソンの方程式の境界条件について詳しくは本稿後半で扱っている)、題意は示される。
分極
ところが現実的には、空間中は一般に原子や分子で満たされていて、これらはわれわれが設定した電荷による電場の影響を受けて、分極してしまいます。分極した原子や分子は、物理的には”電荷”として扱わないといけません。われわれがはじめに置いて固定した電荷分布を\(\rho_i(\mathbf{r})\)、そのあとしばらく経って電荷配置が落ち着いたときの分極電荷分布を\(\rho_p(\mathbf{r})\)とすると、全電荷はその和\(\rho_i(\mathbf{r})+\rho_p(\mathbf{r})\)になります。全電荷\(\rho_i(\mathbf{r})+\rho_p(\mathbf{r})\)はもちろんクーロンの法則を満たし、分極の生じない自由空間中にわれわれが置いた電荷分布と同じように振る舞いますから、前稿と同じようにクーロンの法則>ガウスの法則・渦なしの法則>ポアソンの方程式と導いていくと、
$$
\left\{
\begin{aligned}
&- \nabla^2 {\phi}(\mathbf{r}) = \frac{\rho_i(\mathbf{r})+\rho_p(\mathbf{r})}{\epsilon_0} \\
&\mathbf{E}(\mathbf{r}) = – \nabla {\phi(\mathbf{r})}
\end{aligned}
\right.
$$
を解いて空間中の静電場の様子を理論的には求めることができます。ただこれには、”分極電荷分布\(\rho_p(\mathbf{r})\)を求めるのは実質的に不可能である”という大きな問題があります。
誘電率
ここで”分極電荷分布\(\rho_p(\mathbf{r})\)を求める”ことなく、われわれがはじめに置いて固定した電荷分布\(\rho_i(\mathbf{r})\)から、空間中の静電場を求めるために、誘電率\(\epsilon\)という物質に依存する物理量を導入します。
一般に、われわれが設定した電荷による電場の影響を受けて分極してから、電荷配置が落ち着いたときの静電場というのは、もとの電場と同じ向きで、もとの電場より弱いものになるはずですよね。

この弱くなる程度の逆数を比誘電率\(\epsilon_r\)とおき、誘電率\(\epsilon\)を比誘電率\(\epsilon_r\)と真空の誘電率\(\epsilon_0\)の積と定義すると、これらは原子や分子の配置に由来するので明らかに物質依存の物理量になります。ここで、比誘電率\(\epsilon_r\)、誘電率\(\epsilon\)の物質中の位置\(\mathbf{r}_1\),\(\mathbf{r}_2\)に、2つの点電荷\(q_1\),\(q_2\)がおかれることを考えます。このとき位置\(\mathbf{r}_1\),\(\mathbf{r}_2\)につくられる電場は、先に述べた比誘電率\(\epsilon_r\)や誘電率\(\epsilon\)の定義から、
$$
\mathbf{E}(\mathbf{r}_1)=\frac{1}{\epsilon_r} \frac{q_2}{4\pi\epsilon_0} \frac{\mathbf{r_1}-\mathbf{r_2}}{|\mathbf{r_1}-\mathbf{r_2}|^3} = \frac{q_2}{4\pi\epsilon} \frac{\mathbf{r_1}-\mathbf{r_2}}{|\mathbf{r_1}-\mathbf{r_2}|^3}
$$$$
\mathbf{E}(\mathbf{r}_2)=\frac{1}{\epsilon_r} \frac{q_1}{4\pi\epsilon_0} \frac{\mathbf{r_2}-\mathbf{r_1}}{|\mathbf{r_2}-\mathbf{r_1}|^3} = \frac{q_1}{4\pi\epsilon} \frac{\mathbf{r_2}-\mathbf{r_1}}{|\mathbf{r_2}-\mathbf{r_1}|^3}
$$となりますね。つまり、以下が成り立ちます。
誘電率\(\epsilon\)の物質中に距離\(R\)離しておかれた2つの点電荷\(q_1\),\(q_2\)の間にはたらく力\(\mathbf{f}\)は、大きさが、
$$
f=\frac{|q_1q_2|}{4\pi\epsilon R^2}
$$であって、お互いを結ぶ直線方向に、\(q_1\)と\(q_2\)が同符号なら引力、異符号なら斥力として現れる。
クーロンの法則と見比べると、\(\epsilon_0\)が\(\epsilon\)に変わっただけであることに気づきますでしょうか。つまり領域全体が誘電率\(\epsilon\)の物質で満たされているときは、前稿の議論で出てきた\(\epsilon_0\)を単に\(\epsilon\)に変えさえすれば、前稿紹介した証明や定理は成立するということですね。
それでは、誘電率(物質)が位置によって異なるときも、見ていきますよ、、、
1 ポアソンの方程式
位置\(\mathbf{r}\)によって物質が異なるとき、その誘電率の空間的な分布を\(\epsilon(\mathbf{r})\)とします。このとき前稿と同じようにクーロンの法則>ガウスの法則・渦なしの法則>ポアソンの方程式というふうに追っていくと、次のようになりますね←難しいことではなく、前稿と”本当に”同じように導出していくだけですよ、上から微分形のガウスの法則、微分形の渦なしの法則、ポアソンの方程式です。
われわれがはじめに置いて固定した電荷分布\(\rho_i(\mathbf{r})\)に対して、
$$
\nabla \cdot \epsilon(\mathbf{r}) \mathbf{E}(\mathbf{r}) = \rho_i(\mathbf{r})
$$
任意の静電場\(\mathbf{E(\mathbf{r})}\)について、
$$
\nabla \times \mathbf{E}(\mathbf{r}) = \mathbf{0}
$$
われわれがはじめに置いて固定した電荷分布\(\rho_i(\mathbf{r})\)に対して、
$$
-\nabla \cdot \epsilon(\mathbf{r}) \nabla \phi(\mathbf{r}) = \rho_i(\mathbf{r})
$$
したがって、位置\(\mathbf{r}\)に対する誘電率を\(\epsilon(\mathbf{r})\)とすると、結局以下の2式がわれわれがはじめに置いて固定した電荷分布\(\rho_i(\mathbf{r})\)と境界条件を1つ与えたとき、空間中の静電場を1つに定めるのです。
$$
\left\{
\begin{aligned}
&-\nabla \cdot \epsilon(\mathbf{r}) \nabla \phi(\mathbf{r}) = \rho_i(\mathbf{r}) \\
&\mathbf{E}(\mathbf{r}) = – \nabla {\phi(\mathbf{r})}
\end{aligned}
\right.
$$前稿よりも一般的になっていますね。
2 導体
物質には、電気を通しやすいものと通しにくいものがあることが、古くから知られていました。例えば金属は電気を通しやすい物質で、水や空気などは電気を通しにくい物質です。よく、前者を導体、後者を不導体や絶縁体とか呼びますね。導体が電気を伝える仕組みは、それを構成する原子の核に束縛されずに、金属の中を自由に動き回ることのできる自由電子にあります。自由電子がわれわれが設定した電荷による電場の影響を受けると、それを打ち消す方向に分布が変化しますね。電荷配置が落ち着いたときの導体中の静電場について、次のことがいえます。
導体内部のあらゆる位置\(\mathbf{r}\)において、電場\(\mathbf{E}(\mathbf{r})=\mathbf{0}\)
導体内部のあらゆる位置\(\mathbf{r}\)において、電位\(\phi(\mathbf{r})\)は一定
電荷は導体表面のみに分布する
すべて数式を使わずに示すことができる。
まず導体内部のある位置\(\mathbf{r}\)において、電場\(\mathbf{E}(\mathbf{r})\ne\mathbf{0}\)と仮定すると、その電場によって自由電子が動かされるが、これは電荷配置が落ち着いていることに矛盾するので、導体内部のあらゆる位置\(\mathbf{r}\)において、電場\(\mathbf{E}(\mathbf{r})=\mathbf{0}\)であるとして示された。
ここで、導体内部のある位置\(\mathbf{r}_0\)を基準とした、導体内部の別の位置\(\mathbf{r}\)の電位\(\phi(\mathbf{r})-\phi(\mathbf{r}_0)\)を求める。定義よりこれは、位置\(\mathbf{r}_0\)から位置\(\mathbf{r}\)へ単位電荷を動かすときの、電気的な力に釣り合わせる外力のする仕事に等しいが、あらゆる位置で単位電荷にはたらく電気的な力は\(\mathbf{0}\)であるから、この仕事も0である。ゆえに\(\phi(\mathbf{r})-\phi(\mathbf{r}_0)=0\)より、導体内部のあらゆる位置\(\mathbf{r}\)において、電位\(\phi(\mathbf{r})\)は一定であるとして示された。
また、電荷配置が落ち着いたときに導体内部にも電荷が分布していると仮定すると、(微分形の)ガウスの法則よりその位置での電場の発散があることになり、先に示した導体内部のあらゆる位置\(\mathbf{r}\)において、電場\(\mathbf{E}(\mathbf{r})=\mathbf{0}\)であることに矛盾するので、電荷は導体表面のみに分布するとして示された。
**導体内部の自由電子が外部電場の影響を受けて、それを打ち消すように動くことは、一般には分極とは言いませんし、導体の誘電率も定義されませんが、形式上導体は誘電率が無限大の物質とみて計算しても問題ありません。ただ、実用上ポアソンの方程式を使うときに、導体を誘電率が無限大の物質とみることはほとんどなく、このあと説明する真電荷分布を用いて対応するのが一般的です。
また、電荷は導体表面のみに分布することの証明を示した中で、(微分形の)ガウスの法則を使っていますが、ここでいう電荷はわれわれがはじめに置いて固定した電荷と、(導体では分極という表現を用いませんが、自由電子の移動を指して形式上の)分極電荷の和である全電荷のことをいっているので、無限大の誘電率ではなく、真空の誘電率を用いた前稿の(微分形の)ガウスの法則を適用するのが正しいです。
$$
\left\{
\begin{aligned}
&-\nabla \cdot \epsilon(\mathbf{r}) \nabla \phi(\mathbf{r}) = \rho_i(\mathbf{r}) \\
&\mathbf{E}(\mathbf{r}) = – \nabla {\phi(\mathbf{r})}
\end{aligned}
\right.
$$
の2式がわれわれがはじめに置いて固定した電荷分布\(\rho_i(\mathbf{r})\)と境界条件を1つ与えたとき、空間中の静電場を1つに定めることを先に述べましたが、これを使うと導体領域の誘電率を無限大として、ポアソンの方程式を適用することになります。
ただ、本稿で誘電率を導入したのは、分極の効果によって最終的な全電荷分布を知ることができないからでした。いま見たように、導体内部の最終的な電荷配置は計算をしなくてもわかるにもかかわらず、それを知らないふりをして誘電率を無限大として計算をして煩雑にさせるのは意味がないですよね。
そこで、われわれがはじめに置いて固定した電荷分布のうち、導体内部の電荷のみその表面に移動した電荷分布\(\rho_f(\mathbf{r})\)(←よく真電荷分布といいます)を使い、導体部分の領域の誘電率は真空の誘電率として、ポアソンの方程式を適用することが一般的です。
位置\(\mathbf{r}\)に対する誘電率を\(\epsilon(\mathbf{r})\)とするが、ここで導体領域の誘電率は真空の誘電率\(\epsilon_0\)とする。このとき空間中の真電荷分布\(\rho_f(\mathbf{r})\)と境界条件を1つ定めると、
$$
\left\{
\begin{aligned}
&-\nabla \cdot \epsilon(\mathbf{r}) \nabla \phi(\mathbf{r}) = \rho_f(\mathbf{r}) \\
&\mathbf{E}(\mathbf{r}) = – \nabla {\phi(\mathbf{r})}
\end{aligned}
\right.
$$から空間中の静電場\(\mathbf{E}(\mathbf{r})\)が1つに定まる。
3 境界条件
前稿からずっと言い続けている境界条件とは、そんなに難しいものではありません。ポアソンの方程式の解を一意に定めるための条件で、計算上は偏微分方程式であるポアソンの方程式の積分定数を求めるために使います。
本稿では、自分の考えている領域の境界に対する物理的にふさわしい要請なら、すべてこの境界条件の段で扱います。
例えばその一つには、自分の考えている領域の境界上の電位を直接指定する境界条件があります←よくディリクレ境界条件とよばれます。たとえば、接地されている導体表面に対し電位\(\phi=0\)といったものです。
あるいは、考えている領域の境界上での電位の法線方向の微分\(\frac{\partial \phi(\mathbf{r})}{\partial \mathbf{n}}\)を直接指定する境界条件もあります←よくノイマン境界条件とよばれます。たとえば、表面電荷密度\(\sigma(\mathbf{r})\)が既知の導体表面では、\(\frac{\partial \phi(\mathbf{r})}{\partial \mathbf{n}}=-\frac{\sigma(\mathbf{r})}{\epsilon_0}\)であるといったものです。
ノイマン境界条件について、考えている領域の境界上での電位の法線方向の微分\(\frac{\partial \phi(\mathbf{r})}{\partial \mathbf{n}}\)の逆符号は電場の法線成分であることと、表面電荷密度\(\sigma(\mathbf{r})\)が既知の導体表面では、\(\frac{\partial \phi(\mathbf{r})}{\partial \mathbf{n}}=-\frac{\sigma(\mathbf{r})}{\epsilon_0}\)であることをそれぞれ示す。
一般の位置\(\mathbf{r}\)の関数であるスカラー量\(f(\mathbf{r})\)に対して、\(\mathbf{a}\)方向の微分\(\frac{\partial f(\mathbf{r})}{\partial \mathbf{a}}\)は
$$
\frac{\partial f(\mathbf{r})}{\partial \mathbf{a}}=\lim_{h\to 0} \frac{f(\mathbf{r}+h\mathbf{a})-f(\mathbf{r})}{h}=\frac{\partial f}{\partial x} a_x+\frac{\partial f}{\partial y} a_y+\frac{\partial f}{\partial z} a_z = (\nabla{f(\mathbf{r})}) \cdot (\mathbf{a})
$$(2つ目の等号は、前稿でも用いた多変数関数の1次近似を用いている)のように定義される。ゆえに、考えている領域の境界上での電位の法線方向の微分は、この定義にのっとると、
$$
\frac{\partial \phi(\mathbf{r})}{\partial \mathbf{n}}=(\nabla{\phi(\mathbf{r})}) \cdot (\mathbf{n})
$$とかける。\(\mathbf{E(\mathbf{r})} = – \nabla \phi(\mathbf{r})\)を用いると、
$$
\frac{\partial \phi(\mathbf{r})}{\partial \mathbf{n}}=- \mathbf{E(\mathbf{r})} \cdot (\mathbf{n})
$$右辺の逆符号は電場ベクトルと法線ベクトルの内積、まさに電場の法線成分のことであるから、示された。
ここで、表面電荷密度\(\sigma(\mathbf{r})\)の導体表面近くで下の図のようにこの面を垂直に貫く円柱面を考えたときの、積分形のガウスの法則を利用すると、
$$
\frac{\partial \phi(\mathbf{r})}{\partial \mathbf{n}}\Delta S=-E_n\Delta S=- \frac{\sigma(\mathbf{r})\Delta S}{\epsilon_0}
$$より、これらを\(\Delta S\)で割ることで示される。

そのほかとして(厳密には境界条件には分類されませんが)、空間的に対称な電荷分布があるときは電位をその中心からの距離のみの関数として表してよいなどの対称性、無限の密度の電荷分布(点電荷)がない限り電位は有限な値をとるという有限性、無限遠で0になるという基準の設定、いたるところ電位はその定義から連続であるという連続性などを条件として設定します。
またノイマン境界条件と似ていますが、積分形のガウスの法則を用いることで、考えている領域の境界上での電位の法線方向の微分と誘電率の積は領域表面に電荷がない限り連続であるという導関数の連続性も、条件になりえます。
ここまででポアソンの方程式の理論的な部分は終わりになります。まとめましょう。
本稿の最終的な結論
一般に、導体領域の誘電率は真空の誘電率\(\epsilon_0\)であるとした、位置\(\mathbf{r}\)に対する誘電率を\(\epsilon(\mathbf{r})\)とする。このとき空間中の真電荷分布\(\rho_f(\mathbf{r})\)と必要な条件を1つ定めると、
$$
\left\{
\begin{aligned}
&-\nabla \cdot \epsilon(\mathbf{r}) \nabla \phi(\mathbf{r}) = \rho_f(\mathbf{r}) \\
&\mathbf{E}(\mathbf{r}) = – \nabla {\phi(\mathbf{r})}
\end{aligned}
\right.
$$から空間中の静電場\(\mathbf{E}(\mathbf{r})\)が1つに定まる。
なお解を一意に定める条件になりうるものは、ディリクレ境界条件/ノイマン境界条件/解の対称性/解の有限性/電位の基準の設定/解の連続性/解の1階微分の連続性などである。
総括
上でまとめたとおりです。ふつう、誘電率や電荷分布が不連続に変わるごとに領域を分けて、それぞれで解を定めて、それぞれの積分定数を条件から決定していくという流れになります。
次稿では、定義があいまいになりがちな静電エネルギーについて考えます。ポアソンの方程式などを応用して、実際の電場を求める記事もいつか作ります。それではまたいつか。
↓↓↓しっかりと電磁気学を勉強したい初修の方は、紙の参考書を持っておくのもいいですよ!
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