第1章―解析力学とはなにか
こんにちは、管理人のturtleです。
本稿はあくまで管理人の備忘録として書いておりますが、解析力学を学びたい読者ならだれでも理解できる形を目指しております。本稿では「概観」することを目指していますが、もちろん本稿だけでは足りない部分は関連記事でところどころ補っております。
では、いきなりですが、解析力学の話をしていきます。
1 解析力学の利点
解析力学とは、初学者にはニュートン力学の数学的な書き換えとして教えられることが多いです。ところが、はじめに解析力学を学んだ読者なら誰もが、なぜ完成されているようにみえるニュートン力学をわざわざ複雑な形に書き換えるんだという疑問を持つでしょう。
その具体的な答えとしては、解析力学ならではの利点をあげるのがいいですかね。例えば、
解析力学では、法則が座標の取り方によらないから、どんな座標系でも数式の形が変わらない。
という利点があります。ニュートンの運動方程式\(m \ddot{\boldsymbol{r}} = \boldsymbol{F}\)を思い出してみましょう。物体の2次元の位置を表現する”座標”が直交座標\(x,y\)であるならば、運動方程式は、
$$
F_x = m\ddot{x} \qquad F_y = m\ddot{y}
$$の2式でしたが、その一方で極座標\(r,\theta\)であるならば、運動方程式は、
$$
F_r = m(\ddot{r} – r\dot{\theta}^2) \qquad F_\theta = m(r\ddot{\theta} + 2\dot{r}\dot{\theta})
$$の2式でした。座標の取り方によって、数式の形が大きく変わっているのが分かりますよね。
その一方で、解析力学での原理となる方程式はあとで紹介しますが、”一般化座標”というもので書かれているため、座標の取り方によらず数式の形が変わりません。ほかにも、
解析力学では、面倒な束縛力を上手に処理して計算できる。
解析力学では、古典力学の枠組みを超えて、さまざまな現代物理学の枠組みへそのまま拡張できる。
とかいう利点もありますが、いま理解しきるのは難しいので、徐々に理解していきましょう。
2 一般化座標の定義
先ほど少し述べたように、解析力学では、一般化座標という、今まで考えてきた座標を拡張した概念を用いるので、先にこれを定義しておきます。
定義1.1(一般化座標の定義)
\(N\)次元空間における各粒子の位置\(\boldsymbol{r}\)は、\(N\)個の変数\(q_1,q_2,…,q_N\)と時間\(t\)でもって表せるが、このときの\(q_1,q_2,…,q_N\)を一般化座標と定義する。
これは例えば、3次元空間を考えると、位置を指定する方法は直交座標\((x_1,x_2,x_3)\)に限らず、極座標\((r,\theta,\phi)\)や円筒座標\((\rho,\theta,z)\)などさまざまありますが、指定方法が何たるかによらず位置を指定できる3変数の組をまとめて一般化座標と呼ぶということです。
3 ラグランジュ力学とハミルトン力学
解析力学には大きく分けて「ラグランジュ力学」と「ハミルトン力学」という2つの記述方法があります。どちらも力学を数学的に洗練して、再構築したものになりますが、世界を記述するために採用している根本的な原理と変数の選び方が異なります。
ではいまから、この2つを順にみていきましょう。
第2章―ラグランジュ力学
1 最小作用の原理
まずは、次のように物理量として「ラグランジアン\(L\)」と「作用\(S\)」を定義して、次のようなことを原理としましょう。
定義2.1(ラグランジアンの定義)
力学系の一般化座標を\(\boldsymbol{q}=(q_1,q_2,…,q_N)\)としたとき、各時刻における系の状態\((\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}, t)\)を引数として、その系の自由度や対称性、相互作用を正しく表すように選ばれる物理量\(L(\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}, t)\)を、ラグランジアンと定義する。
定義2.2(作用の定義)
力学系の一般化座標を\(\boldsymbol{q}=(q_1,q_2,…,q_N)\)、系に対応するラグランジアンを\(L(\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}, t)\)としたとき、
$$
S=\int_{t_i}^{t_f} L(\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}, t) dt
$$なる物理量\(S\)を、時刻\(t_i\)から時刻\(t_f\)までの作用と定義する。
原理2.3(最小作用の原理)
現実に物体が通過する経路\(\boldsymbol{q}(t)\)においては作用\(S\)が停留する、すなわち、始点\(\boldsymbol{q}(t_i)\)と終点 \(\boldsymbol{q}(t_f)\)を固定したときの作用の変分\(\delta S\)がゼロになる。
かなり突飛にいろんなことが出てきて、何を言っているのかわからないように思えますが、くわしくはこちらで説明しています。
大事なことだけ書いておくと、原理というのは、証明はできないけれどたしかに現実の運動がそれにしたがっている、という主張のことで、古典力学におけるニュートンの運動方程式、古典電磁気学におけるマクスウェル方程式みたいなものですね。
今回、解析力学をはじめるにあたって、原理2.3、すなわち「現実に物体が通過する経路\(\boldsymbol{q}(t)\)においては、作用\(S=\int_{t_i}^{t_f} L(\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}, t) dt\)が停留する」という主張が、現実に起こる運動と非常によく整合しているから、証明なしに受け入れてしまおうということです。
2 オイラー=ラグランジュ方程式
先ほど示した原理2.3から、以下の定理2.4が導かれます。
定理2.4(オイラー=ラグランジュ方程式)
力学系の一般化座標を\(\boldsymbol{q}=(q_1,q_2,…,q_N)\)、系に対応するラグランジアンを\(L(\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}, t)\)としたとき、\(i=1,2,…,N\)に対して以下が成り立つ。
$$
\frac{\partial L}{\partial q_i} – \frac{d}{dt} \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} =0
$$
定理2.4の証明
現実の経路を\(\boldsymbol{q}(t)\)として、ここから任意に微小ずれた仮想の経路を\(\boldsymbol{q}(t)+\delta \boldsymbol{q}(t)\)と表す。なお、経路がずれると当然それに伴って速度も\(\dot{\boldsymbol{q}}(t)\)から \(\dot{\boldsymbol{q}}(t)+\delta\dot{\boldsymbol{q}}(t)\)へと変化する。
ここで、極限の定義を考えると、
$$
\delta \left( \frac{d}{dt} \boldsymbol{q}(t) \right) = \delta\dot{\boldsymbol{q}}(t) = \lim_{t_2 \to t_1} \left( \frac{\left( \boldsymbol{q}(t_2)+\delta \boldsymbol{q}(t_2) \right) – \left( \boldsymbol{q}(t_1)+\delta \boldsymbol{q}(t_1) \right)}{t_2-t_1} – \frac{\boldsymbol{q}(t_2) – \boldsymbol{q}(t_1)}{t_2-t_1} \right) = \frac{d}{dt}\delta \boldsymbol{q}(t)
$$より、変分の時間微分と時間微分の変分が等しいことがわかる。
さて、経路が\(\delta \boldsymbol{q}(t)\)だけずれたときの作用\(S\)の変分
$$
\delta S=\int_{t_i}^{t_f} L(\boldsymbol{q}+\delta \boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}+\delta \dot{\boldsymbol{q}}, t) dt-\int_{t_i}^{t_f}L(\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}, t) dt
$$を計算する。偏微分を用いて微小項の1次まで展開すると、変分の時間微分と時間微分の変分が等しいことを用いて、
$$
\delta S=\int_{t_i}^{t_f} \sum_{i=1}^N \left(\frac{\partial L}{\partial q_i} \delta q_i + \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \delta\dot{q}_i \right) dt = \int_{t_i}^{t_f} \sum_{i=1}^N \left\{ \frac{\partial L}{\partial q_i} \delta q_i + \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \left( \frac{d}{dt} \delta q_i \right) \right\}
$$第2項を部分積分を用いて展開すると、主張2.3の前提として始点と終点における変分\(\delta \boldsymbol{q}(t_i)\), \(\delta \boldsymbol{q}(t_f)\)はゼロになるから、
$$
\int_{t_i}^{t_f} \sum_{i=1}^N \left\{ \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \left(\frac{d}{dt} \delta q_i \right) \right\} dt = \sum_{i=1}^N \left\{ \left[ \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i}\delta q_i\right]_{t_i}^{t_f} – \int_{t_i}^{t_f} \left( \frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial\dot{q}_i} \right) \delta q_i \right\} dt = \int_{t_i}^{t_f} \sum_{i=1}^N \left\{ \left( \frac{d}{dt} \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \right) \delta q_i \right\} dt
$$とかける。主張2.3より\(\delta S=0\)であるから、
$$
\int_{t_i}^{t_f} \sum_{i=1}^N \left\{ \left( \frac{\partial L}{\partial q_i} – \frac{d}{dt} \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \right) \delta q_i \right\} dt =0
$$ここで数学的に、変分法の基本補題より、それぞれ始点と終点以外ではどんな形でも自由に選べる任意のズレである\(\delta q_i(t)\)に対して、どんな\(\delta q_i(t)\)を掛け算して積分しても結果が常にゼロになることと、カッコの中身の関数自体が常にゼロであることは同値だから、\(i=1,2,…,N\)に対して以下が成り立つ。
$$
\frac{\partial L}{\partial q_i} – \frac{d}{dt} \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} =0
$$□
さて、ここまでがラグランジュ力学の出発点です。
今はまだ何が何だかわからないかもしれませんが、もうここまでですでに、古典力学や電磁気学、相対性理論など、それぞれの理論が要請する対称性を満たすラグランジアンを絞り込んで計算すると、具体的な運動を指定する方程式が現れる、という体系の準備は整いました。
例として、古典力学にしたがう系について1つ紹介します。
【古典力学における1次元ポテンシャル中の粒子のラグランジアン】
1次元ポテンシャル中で、古典力学の要請に従って運動する粒子を考えます。
まずは、周りに何もなく、誰からも力を受けない自由粒子のラグランジアン\(L_{\text{free}}\)を考えましょう。\(L_{\text{free}}\)は位置\(x\)と速度\(\dot{x}\)、そして時間\(t\)の関数であって、古典力学の要請で、時間の一様性、空間の一様性、空間の等方性、そしてガリレイの相対性原理を満たします。
まず、時間の一様性というのは、今日の宇宙と明日の宇宙で物理法則は変わらない、ということです。つまり、ラグランジアン\(L_{\text{free}}\)は時刻\(t\)を直接の変数としては含みません。これより、\(L_{\text{free}}\)は位置\(x\)と速度\(\dot{x}\)の関数\(L(x, \dot{x})\)としてかける必要があります。
次に、空間の一様性というのは、宇宙のどこに行っても物理法則は同じということです。つまり、ラグランジアン\(L_{\text{free}}\)は位置\(x\)を直接の変数としては含みません。これより、\(L_{\text{free}}\)は速度\(\dot{x}\)の関数\(L(\dot{x})\)としてかける必要があります。
続いて、空間の等方性というのは、右に動いても左に動いても、つまり、速度が\(+\dot{x}\)でも\(-\dot{x}\)でも物理法則は同じはずだということです。符号に依存してはいけないので、ラグランジアン\(L_{\text{free}}\)に含まれる速度\(\dot{x}\)は2乗の形でなければなりません。これより、\(L_{\text{free}}\)は速度の2乗\(\dot{x}^2\)の関数\(L(\dot{x}^2)\)としてかける必要があります。
さらに、ガリレイの相対性原理というのは「止まっている人から見ても、等速で動いている人から見ても、物理法則は同じにならなければならない」という対称性のことです。
止まっている人から見た粒子の速度を\(\dot{x}\)とすると、一定の微小速度\(v_0\)で走る電車から見た粒子の速度は\(\dot{x} + v_0\)にみえるので、電車から見た自由粒子のラグランジアン\(L’_{\text{free}}\)は、
$$
L’_{\text{free}} = L_{\text{free}}((\dot{x} + v_0)^2) = L_{\text{free}}(\dot{x}^2 + 2\dot{x}v_0 + v_0^2) \approx L_{\text{free}}(\dot{x}^2) + \frac{\partial L_{\text{free}}}{\partial (\dot{x}^2)} (2\dot{x}v_0)
$$とかけるわけですが、ガリレイの相対性原理より、
$$
\frac{\partial L_{\text{free}}}{\partial q_i} – \frac{d}{dt} \frac{\partial L_{\text{free}}}{\partial \dot{q}_i} =0
$$$$
\frac{\partial L’_{\text{free}}}{\partial q_i} – \frac{d}{dt} \frac{\partial L’_{\text{free}}}{\partial \dot{q}_i} =0
$$のそれぞれから出てくる数式は同じはずです。ここで、定理2.5より、ラグランジアンに任意の関数\(G(\boldsymbol{q},t)\)の時間微分だけの不定性があっても、オイラー=ラグランジュ方程式の結果は変わらないことを用いると、
$$
L’_{\text{free}} – L_{\text{free}} =\frac{\partial L}{\partial (\dot{x}^2)} (2\dot{x}v_0)
$$が、ある関数の時間微分になっていればよいので、速度\(\dot{x}\)が位置\(x\)の時間微分であることをふまえると、\(\frac{\partial L}{\partial (\dot{x}^2)}\)がただの定数であればよいことになります。この定数を\(C\)とおきましょう。
$$
\frac{\partial L}{\partial (\dot{x}^2)} = C
$$について、最後にこれを積分して、自由粒子のラグランジアンとして、\(L_{\text{free}} = C\dot{x}^2\)が求められます。
1次元ポテンシャル中の粒子に戻りましょう。周りに物体や力場があると、場所によって環境が変わるため「空間の一様性」という対称性が破れます。つまり、ラグランジアンは再び位置\(x\)に依存するようになります。
この「場所ごとの環境の違い」を表すために、先ほどの自由粒子のラグランジアンに位置\(x\)だけで決まる関数\(-V(x)\)を付け足すと、ラグランジアンは\(L = C \dot{x}^2 – V(x)\)となりました。
これをオイラー=ラグランジュ方程式に代入して計算すると、
$$
\frac{\partial L}{\partial x} – \frac{d}{dt} \frac{\partial L}{\partial \dot{x}} = -2C\ddot{x} – \frac{\partial V(x)}{\partial x} = 0
$$となりますが、これは粒子が環境を表す関数\(V(x)\)の傾きに比例した加速度を生じるという法則を表しており、私たちが経験的に知っている古典力学の運動法則の型と完全に一致しています!
このときは、定数\(2C\)を質量\(m\)、環境を表す関数\(V(x)\)の傾きの逆符号\(-\frac{\partial V(x)}{\partial x}\)を力\(F\)と定義すると、古典力学のときの定義と一致しますね。
この例のように、それぞれの世界が満たす要請にしたがうように、系のラグランジアンを作り上げ、オイラー=ラグランジュ方程式に代入して計算すると、具体的な運動を指定する方程式が現れるというのが解析力学の本質で、決してニュートン力学の数学的な書き換えで終わるものではありません。
先ほど解析力学の利点の一つとしてあげた
解析力学では、古典力学の枠組みを超えて、さまざまな現代物理学の枠組みへそのまま拡張できる。
というのは、このようなことを指しています。
3 ゲージ不変性の定理
さてここまでで解析力学には、ラグランジアンの具体的な表式に依らず、オイラー=ラグランジュ方程式から成り立つ「定理」さえ準備しておけば、あとは先ほどの例のように、物理が要請する内容にあうラグランジアンをつくるだけで、その物理において成り立つことが一気に出てくるという良さがありそうだ、ということがイメージしていただけるでしょうか。
オイラー=ラグランジュ方程式から成り立つ「定理」の一つとして、ゲージ不変性の定理があるので紹介します。ラグランジアンは関数として一意に定まらず、関数の全微分だけの不定性が残るという定理です。
定理2.5(ゲージ不変性の定理)
ある系におけるラグランジアンを\(L(\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}, t)\)とする。このとき、任意の関数\(G(\boldsymbol{q},t)\)に対して、\(\tilde{L}=L+\frac{dG}{dt}\)とすると、各\(i\)に対して、以下の2方程式は等価である。
$$
\frac{\partial L}{\partial q_i} – \frac{d}{dt} \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} =0 \qquad \frac{\partial \tilde{L}}{\partial q_i} – \frac{d}{dt} \frac{\partial \tilde{L}}{\partial \dot{q}_i} =0
$$
定理2.5の証明
ラグランジアンを\(\tilde{L}\)としたときの左辺を変形する。第1項および第2項は、
$$
\text{第1項}=\frac{\partial}{\partial q_i} \left( L+\frac{dG}{dt} \right) = \frac{\partial L}{\partial q_i}+ \frac{\partial}{\partial q_i} \left\{ \sum_{j=1}^N \left( \frac{\partial G}{\partial q_j} \frac{\partial q_j}{\partial t} \right) + \frac{\partial G}{\partial t} \frac{dt}{dt} \right\} = \frac{\partial L}{\partial q_i} + \sum_{i=1}^N \frac{\partial^2 G}{\partial q_i \partial q_j} \frac{\partial q_j}{\partial t} + \frac{\partial^2 G}{\partial q_i \partial t}
$$$$
\text{第2項}= \frac{d}{dt} \left\{ \frac{\partial}{\partial \dot{q}_i} \left( L+\frac{dG}{dt} \right) \right\} = \frac{d}{dt} \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} + \frac{d}{dt} \frac{\partial \dot{G}}{\partial \dot{q}_i} = \frac{d}{dt} \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} + \frac{d}{dt} \frac{\partial G}{\partial q_i} = \frac{d}{dt} \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} + \sum_{i=1}^N \frac{\partial^2 G}{\partial q_i \partial q_j} \frac{\partial q_j}{\partial t} + \frac{\partial^2 G}{\partial q_i \partial t}
$$のようになる。ただし、2式目の3つめの等号は、以下の関係を利用している。
$$
\frac{\partial \dot{G}}{\partial \dot{q}_i} = \frac{\partial}{\partial \dot{q}_i} \left( \sum_{j=1}^N \frac{\partial G}{\partial q_j} \dot{q}_j + \frac{\partial G}{\partial t} \right) = \frac{\partial G}{\partial q_i}
$$したがって、元の式の左辺に代入すると、
$$
\text{左辺}= \left( \frac{\partial L}{\partial q_i} + \sum_{i=1}^N \frac{\partial^2 G}{\partial q_i \partial q_j} \frac{\partial q_j}{\partial t} + \frac{\partial^2 G}{\partial q_i \partial t} \right) – \left( \frac{d}{dt} \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} + \sum_{i=1}^N \frac{\partial^2 G}{\partial q_i \partial q_j} \frac{\partial q_j}{\partial t} + \frac{\partial^2 G}{\partial q_i \partial t} \right) = \frac{\partial L}{\partial q_i} – \frac{d}{dt} \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i}
$$となるから、ラグランジアンを\(L\)としたときと\(\tilde{L}\)としたときで、オイラーラグランジュ方程式は等価であることが示された。□
4 ネーターの定理
ネーターの定理もオイラー=ラグランジュ方程式から成り立つ定理であって、保存則を統一的に見つけられる非常に重要な定理になります。
ある力学系について、何らかの変換をしたときにその記述が変化を受けないとき、これを「対称性がある」と表現します。例えば、その系を平行移動したときに変化がないならば「空間並進に対して対称性がある」といったり、その系が時間の並進に対して変化がないならば「時間並進に対して対称性がある」といったりする、ということです。
この対称性に対応して、保存則が出てくると主張するのが、ネーターの定理です。
定理2.6(ネーターの定理)
一般化座標における無限小変換\(\boldsymbol{q} \to \boldsymbol{q}+ \delta \boldsymbol{q}\)を考えたときに、ラグランジアンが\(L(\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}, t) \to L(\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}, t)+ \frac{d}{dt} J\)と変化する、つまりラグランジアンの変分\(\delta L\)がある関数の時間による全微分でかけるならば、以下の値は時間変化に対して保存する。
$$
\left( \sum_{i=1}^N \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \delta q_i \right) – J
$$
定理2.6の証明
まず、一般化座標が\(q_i \to q_i + \delta q_i\)と変化したときのラグランジアン \(L(\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}, t)\)の変分\(\delta L\)を、テイラー展開の1次の項まで書き下す。ここで、極限の定義より、
$$
\delta \left( \frac{d}{dt} \boldsymbol{q}(t) \right) = \delta\dot{\boldsymbol{q}}(t) = \lim_{t_2 \to t_1} \left( \frac{\left( \boldsymbol{q}(t_2)+\delta \boldsymbol{q}(t_2) \right) – \left( \boldsymbol{q}(t_1)+\delta \boldsymbol{q}(t_1) \right)}{t_2-t_1} – \frac{\boldsymbol{q}(t_2) – \boldsymbol{q}(t_1)}{t_2-t_1} \right) = \frac{d}{dt}\delta \boldsymbol{q}(t)
$$となるから、変分の時間微分と時間微分の変分が等しいことに注意すると、
$$
\delta L = \sum_{i=1}^N \left( \frac{\partial L}{\partial q_i} \delta q_i + \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \delta \dot{q}_i \right) = \sum_{i=1}^N \left[ \frac{d}{dt} \left( \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \right) \delta q_i + \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \frac{d}{dt}(\delta q_i) \right] = \sum_{i=1}^N \frac{d}{dt} \left( \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \delta q_i \right) = \frac{d}{dt} \left( \sum_{i=1}^N \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \delta q_i \right)
$$となる。ただし、2つ目の等号は系が現実の物理法則に従って運動している、つまり、オイラー=ラグランジュ方程式を満足すること、3つ目の等号は大カッコ\([\quad]\)の中身に積の微分公式を用いた。
ここで、いま定理2.6の仮定より、ラグランジアンの変分\(\delta L\)がある関数\(J\)の時間による全微分でかけることを用いると、
$$
\frac{d}{dt} \left( \sum_{i=1}^N \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \delta q_i \right) = \frac{d}{dt} J
$$となるので、移項して、
$$
\frac{d}{dt} \left( \sum_{i=1}^N \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \delta q_i – J \right) = 0
$$とかくことができる。ある量の時間微分がゼロになるということは、その量が時間的に変化しない定数であることを意味するため、示された。□
さて、ここから面白いほど簡単に保存則を出すことができます。例としていくつか考えてみましょう。
系2.7
系に、特定の方向(例えば一般化座標の\(k\)番目\(q_k\))への無限小変換に対する対称性があるならば、物理量\(\frac{\partial L}{\partial \dot{q}_k}\)が時間変化に対して保存する。
系2.7の証明
一般化座標の\(k\)番目\(q_k\)方向への無限小変換は、\(\boldsymbol{q} \to \boldsymbol{q} + \epsilon \boldsymbol{e}_k \)と表すことができる。ここで系2.7の仮定より、この変換に対してラグランジアン\(L\)が変化しない、つまりラグランジアンの変分\(\delta L\)がゼロであるので、定理2.6の結果より、
$$
\sum_{i=1}^N \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \delta q_i – J = \epsilon \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_k}
$$は保存する。\(\epsilon\)は任意の定数であるから、これを\(\epsilon\)で割った\(\frac{\partial L}{\partial \dot{q}_k}\)も保存するとして、示された。□
系2.8
系に、時間並進に対する対称性があるならば、物理量\(\left( \sum_{i=1}^N \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \dot{q}_i \right) – L \)が時間変化に対して保存する。
系2.8の証明
時間を微小な定数\(\epsilon\)だけ進める無限小変換は、\(\boldsymbol{q} \to \boldsymbol{q} + \epsilon \dot{\boldsymbol{q}} \)と表すことができる。
ここで系2.8の仮定より、この変換に対してラグランジアン\(L\)が時間並進対称性をもつ、つまりラグランジアンが時間\(t\)を直接の変数としては含まないといえるので、\(\frac{\partial L}{\partial t}=0\)である。これより、ラグランジアン\(L(\boldsymbol{q},\dot{\boldsymbol{q}},t)\)を時間\(t\)で全微分すると、合成関数の微分法を用いて、
$$
\frac{dL}{dt} = \sum_{i=1}^N \left( \frac{\partial L}{\partial q_i} \dot{q}_i + \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \ddot{q}_i \right) + \frac{\partial L}{\partial t} = \left[ \sum_{i=1}^N \left( \frac{\partial L}{\partial q_i} \dot{q}_i + \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \ddot{q}_i \right) \right]
$$とかける。一方、ラグランジアンの変分\(\delta L\)は
$$
\delta L = \sum_{i=1}^N \left( \frac{\partial L}{\partial q_i} \delta q_i + \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \delta \dot{q}_i \right) = \sum_{i=1}^N \left( \frac{\partial L}{\partial q_i} (\dot{q}_i \epsilon) + \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} (\ddot{q}_i \epsilon) \right) = \left[ \sum_{i=1}^N \left( \frac{\partial L}{\partial q_i} \dot{q}_i + \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \ddot{q}_i \right) \right] \epsilon
$$とかける。2式の大カッコ\([\quad]\)の中身は同じであるので、代入して整理すると、
$$
\delta L = \frac{dL}{dt} \epsilon = \frac{d}{dt} (\epsilon L)
$$というように、ラグランジアンの変分\(\delta L\)が関数の時間による全微分でかけるから、定理2.6の結果より、
$$
\sum_{i=1}^N \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \delta q_i – J = \epsilon \left\{ \left( \sum_{i=1}^N \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \dot{q}_i \right) – L \right\}
$$は保存する。\(\epsilon\)は任意の定数であるから、これを\(\epsilon\)で割った\( \left( \sum_{i=1}^N \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} \dot{q}_i \right) – L \)も保存するとして、示された。□
系2.9
\(i\)番目の粒子の3次元直交座標ベクトルを\(\boldsymbol{r}_i=(x_i,y_i,z_i)\)とする。このとき系に、空間回転対称性があるならば、物理量\(\sum_{i=1}^N \boldsymbol{r}_i \times \left( \nabla_{\boldsymbol{r}_i} L \right) \)が時間変化に対して保存する。
系2.9の証明
ある任意の回転軸の周りに微小な角度だけ回転させる無限小変換は、\(\boldsymbol{r}_i \to \boldsymbol{r}_i + \delta \boldsymbol{\theta} \times \boldsymbol{r}_i \)と表すことができる。ここで系2.9の仮定より、この変換に対してラグランジアン\(L\)が変化しない、つまりラグランジアンの変分\(\delta L\)がゼロであるので、定理2.6の結果より、
$$
\sum_{i=1}^N \frac{\partial L}{\partial \dot{r}_i} \delta r_i – J = \sum_{i=1}^N \sum_{j=1}^3 p_ij \delta r_ij = \sum_{i=1}^N \left( \nabla_{\boldsymbol{r}_i} L \right) \cdot \delta \boldsymbol{r}_i = \sum_{i=1}^N \left( \nabla_{\boldsymbol{r}_i} L \right) \cdot \left( \delta \boldsymbol{\theta} \times \boldsymbol{r}_i \right) = \delta \boldsymbol{\theta} \cdot \left( \sum_{i=1}^N \boldsymbol{r}_i \times \left( \nabla_{\boldsymbol{r}_i} L \right) \right)
$$は保存する。\(\delta \boldsymbol{\theta}\)は任意の定ベクトルであるから、\(\sum_{i=1}^N \boldsymbol{r}_i \times \left( \nabla_{\boldsymbol{r}_i} L \right)\)も保存するとして、示された。□
5 拘束系への拡張
これについては、少し長いのでこちらで説明しています。
6 連続体への拡張
これについても、少し長いのでこちらで説明しています。
7 具体的なラグランジュ力学の適用例
解析力学を学ぶときは、やはり抽象的な定式化だけを続けていると何をやっているかわからなくなりがちなので、具体例を通してその威力を実感することが大切になります。
そこで例として、ラグランジュ力学の適用をいくつか紹介します。
古典力学におけるポテンシャル中の粒子の運動について、ラグランジュ力学を適用した議論をこちらで説明しています。
古典力学における自由な剛体の運動について、ラグランジュ力学を適用した議論をこちらで説明しています。
第3章―ハミルトン力学
1 一般化運動量の定義
一般化座標に共役な物理量として、ハミルトン力学でとても大事な一般化運動量を定義しておきます。
定義3.1(一般化運動量の定義)
力学系の一般化座標を\(\boldsymbol{q}=(q_1,q_2,…,q_N)\)、系に対応するラグランジアンを\(L(\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}, t)\)としたとき、\(\frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i}\)を一般化運動量\(p_i\)と定義する。
2 ルジャンドル変換と正準方程式
さてこれからラグランジュ力学を出発点として、ハミルトン力学をつくっていこうと思いますが、この過程で欠かせないのが、ルジャンドル変換という作業です。
とくに、いまから行うルジャンドル変換の目標というのは、
ラグランジアンの引数の組\((\boldsymbol{q},\dot{\boldsymbol{q}},t)\)のうちの一般化速度を表す変数のいくつか、\((\dot{q}_{j_1},\dot{q}_{j_2},…,\dot{q}_{j_n})\)を、一般化運動量\(p_{j_1},p_{j_2},…,p_{j_n})\)に取り換えること
です。このとき定理3.2が成り立ちます。ただし、記号が複雑になるので、前もって以下のように記法を簡略化しておきます。
- 引数の組\((\boldsymbol{q},\dot{\boldsymbol{q}},t)\)のうちの速度を表す変数のいくつか、\((\dot{q}_{j_1},\dot{q}_{j_2},…,\dot{q}_{j_n})\)を、\(p_{j_1},p_{j_2},…,p_{j_n})\)に取り換えた変数の組を、\((\tilde{\boldsymbol{q}},\dot{\tilde{\boldsymbol{q}}},t)\)とかくことにします。
- \(p_j=\partial L/\partial \dot{q}_j\)を計算した式について、これを式変形して\(\dot{q}_j\)に関して解くことができますが、解いた結果の関数を\(\dot{q}_j \left( \tilde{\boldsymbol{q}},\dot{\tilde{\boldsymbol{q}}},t \right)\)とかくことにします。
- 系のラグランジアン\(L(\boldsymbol{q},\dot{\boldsymbol{q}},t)\)の引数のうちの\(\left\{ \dot{q}_{j_i} \right\}_{i=1}^n\)に、解いた結果の関数\(\left\{ \dot{q}_{j_i} \left( \tilde{\boldsymbol{q}},\dot{\tilde{\boldsymbol{q}}},t \right) \right\}_{i=1}^n \)を代入した結果の、\((\tilde{\boldsymbol{q}},\dot{\tilde{\boldsymbol{q}}},t)\)の関数を、\(\tilde{L}(\tilde{\boldsymbol{q}},\dot{\tilde{\boldsymbol{q}}},t)\)とかくことにします。
定理3.2(ルジャンドル変換)
力学系の一般化座標を\(\boldsymbol{q}=(q_1,q_2,…,q_N)\)、系に対応するラグランジアンを\(L(\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}, t)\)としたとき、\((\tilde{\boldsymbol{q}},\dot{\tilde{\boldsymbol{q}}},t)\)を引数とする新しい関数を以下のように定義する。
$$
R(\tilde{\boldsymbol{q}},\dot{\tilde{\boldsymbol{q}}},t) = \tilde{L}(\tilde{\boldsymbol{q}},\dot{\tilde{\boldsymbol{q}}},t) – \sum_{i=1}^n p_{j_i} \dot{q}_{j_i} \left( \tilde{\boldsymbol{q}},\dot{\tilde{\boldsymbol{q}}},t \right)
$$ここで、\(k \ne j_1,j_2,…,j_n\)に対しては、以下の方程式が成り立つ。
$$
\frac{\partial R}{\partial q_k} – \frac{d}{dt} \frac{\partial R}{\partial \dot{q}_k} =0
$$また、\(l = j_1,j_2,…,j_n\)に対しては、以下の方程式が成り立つ。
$$
\frac{\partial R}{\partial q_l} = \dot{p}_l \quad
\frac{\partial R}{\partial p_l} = – \dot{q}_l
$$
定理3.2の証明
\(k \ne j_1,j_2,…,j_n\)と\(l = j_1,j_2,…,j_n\)に対して、ラウシアン\(R = L – \sum_l p_l \dot{q}_l\)の全微分\(dR\)は、
\begin{align*}
dR &=dL – \sum_l (dp_l \dot{q}_l + p_l d\dot{q}_l) \\
&= \left( \sum_k \frac{\partial L}{\partial q_k} dq_k + \sum_k \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_k} d\dot{q}_k + \sum_l \frac{\partial L}{\partial q_l} dq_l + \sum_l \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_l} d\dot{q}_l + \frac{\partial L}{\partial t} dt \right) – \left( \sum_l (dp_l \dot{q}_l + p_l d\dot{q}_l) \right) \\
&= \left( \sum_k \frac{\partial L}{\partial q_k} dq_k + \sum_k p_k d\dot{q}_k + \sum_l \frac{\partial L}{\partial q_l} dq_l + \sum_l p_l d\dot{q}_l + \frac{\partial L}{\partial t} dt \right) – \left( \sum_l (dp_l \dot{q}_l + p_l d\dot{q}_l) \right) \\
&= \sum_k \frac{\partial L}{\partial q_k} dq_k + \sum_k p_k d\dot{q}_k + \sum_l \frac{\partial L}{\partial q_l} dq_l – \sum_l \dot{q}_l dp_l + \frac{\partial L}{\partial t} dt \qquad \text{(a)}
\end{align*}とかける。ただし、3つ目の等号は一般化運動量の定義を用いている。一方で、\(R\)の形式的な全微分を書き下すと、
$$
dR = \sum_k \frac{\partial R}{\partial q_k} dq_k + \sum_k \frac{\partial R}{\partial \dot{q}_k} d\dot{q}_k + \sum_l \frac{\partial R}{\partial q_l} dq_l + \sum_l \frac{\partial R}{\partial p_l} dp_l + \frac{\partial R}{\partial t} dt \quad \cdots \text{(b)}
$$とかけるから、(a)式と(b)式で各微小変化\(dq, d\dot{q}, dp\)の係数を比較して、\(k \ne j_1,j_2,…,j_n\)に対しては、以下が成り立つ。
$$
\frac{\partial R}{\partial q_k} = \frac{\partial L}{\partial q_k} \qquad \frac{\partial R}{\partial \dot{q}_k} = p_k = \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_k} \qquad \text{(c)}
$$\(l = j_1,j_2,…,j_n\)に対しては、以下が成り立つ。
$$
\frac{\partial R}{\partial q_l} = \frac{\partial L}{\partial q_l} \qquad \frac{\partial R}{\partial p_l} = -\dot{q}_l \qquad \text{(d)}
$$
もとのラグランジアン\(L\)ではすべての変数に対してオイラー・ラグランジュ方程式が成り立っているから、\(k \ne j_1,j_2,…,j_n\)に対しては、
$$
\frac{d}{dt} \left( \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_k} \right) – \frac{\partial L}{\partial q_k} = \frac{d}{dt} \left( \frac{\partial R}{\partial \dot{q}_k} \right) – \frac{\partial R}{\partial q_k} = 0
$$が成り立つ。ただし、1つめの等号で(c)式を用いている。また、\(l = j_1,j_2,…,j_n\)に対しては
$$
\frac{d}{dt} \left( \frac{\partial L}{\partial \dot{q}_l} \right) – \frac{\partial L}{\partial q_l} = \frac{d}{dt} p_k – \frac{\partial R}{\partial q_l} = 0
$$が成り立つ。ただし、1つ目の等号で(d)式の1式目と、一般化運動量の定義を用いている。\(\frac{\partial R}{\partial p_l} = – \dot{q}_l\)は(d)式の2式目そのものであるので、以上より示された。□
さらに、この特別な場合として、
ラグランジアンの引数の組\((\boldsymbol{q},\dot{\boldsymbol{q}},t)\)のうちの一般化速度を表す変数のすべて、\((\dot{q}_{j_1},\dot{q}_{j_2},…,\dot{q}_{j_N})\)を、一般化運動量\(p_{j_1},p_{j_2},…,p_{j_N})\)に取り換えること
を考えます。このときの定理3.2にしたがって定義した新しい関数の逆符号は、ハミルトニアンとよばれます。
定義3.3(ハミルトニアンの定義)
力学系の一般化座標を\(\boldsymbol{q}=(q_1,q_2,…,q_N)\)、系に対応するラグランジアンを\(L(\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}, t)\)、系の一般化運動量を\(\boldsymbol{p}=(p_1,p_2,…,p_N)\)としたとき、以下のように定義した物理量\(H(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}, t)\)をハミルトニアンという。
$$
H(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}, t) = \sum_{i=1}^N p_i \dot{q}_i(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}, t) – L \Big(\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}, t), t \Big)
$$
このとき、定理3.2より以下が直ちに成り立ちます。
原理3.4(正準方程式)
力学系の一般化座標を\(\boldsymbol{q}=(q_1,q_2,…,q_N)\)、一般化運動量を\(\boldsymbol{p}=(p_1,p_2,…,p_N)\)、系に対応するハミルトニアンを\(H(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p},t)\)としたとき、\(i=1,2,…,N\)に対して以下が成り立つ。
$$
\frac{\partial H}{\partial q_i} = – \dot{p}_i \qquad
\frac{\partial H}{\partial p_i} = \dot{q}_i
$$
さて、ここまでがハミルトン力学の出発点で、原理3.4をもとにしていろいろな議論をしていくのがハミルトン力学とよばれる体系です。ラグランジュ力学が「始点から終点までの最適なルート探し」という大局的な視点を持つのに対して、ハミルトン力学は「現在の状態から次の瞬間にどう状態が変化するか」という時間発展的な視点を持っているイメージが分かるでしょうか。
なおラグランジュ力学とハミルトン力学は、力学を記述する枠組みとして原則として互いに等価で、同じことを言い方を変えて説明しているだけなのですが、相性がいい分野や問題がそれぞれ違うためにどちらも学ぶ対象として、どちらも生き残っています。
3 位相空間
さて、ハミルトン力学も実はラグランジュ力学と同じように、ハミルトニアンの具体的な表式に依らず、正準方程式から成り立つ「定理」さえ準備しておけば、あとは物理が要請する内容にあうハミルトニアンをつくるだけで、その物理において成り立つことが一気に出てくるという良さがありそうだ、ということがイメージしていただけるでしょうか。
そこで、ここからは正準方程式から成り立つ「定理」をいろいろと考えていくのですが、ハミルトン力学を扱うにあたって欠かせない特徴的な道具として、位相空間とポアソン括弧があります。
まずは位相空間から、これは次のように定義されます。
定義3.5(位相空間の定義)
ある自由度\(N\)の力学系に対して、系の一般化座標\(q_i\)とそれに共役な一般化運動量\(p_i\)の計\(2N\)の変数を座標とするような\(2N\)次元の空間のことを、その系の位相空間と定義する。
例えば、私たちが現実で粒子の運動をみるときは、ある時刻を切り取ると粒子が3次元空間中のどこかにいるという”配置”が与えられます。これは「実空間」とよばれ、質点が\(N\)個あっても3次元の空間で運動を表現しますね。
それから、系の配置を決めるために必要な変数を全部まとめて1点で表す空間を「配位空間」といいます。これは質点が\(N\)個あってそれぞれが3自由度で運動する状況なら\(3N\)次元の空間になりますし、配位空間の軸は必ずしも\(x,y,z\)ではなくて角度変数や原点からの距離など何でも構わない一般化座標であるという点で「実空間」と異なります。
さて、これら「実空間」や「配位空間」で運動をみるときの問題はなんでしょうか。ここは少々天下り的に答えを与えますが、同じ配置にいてもその後の運動が1通りとは限らず、たとえば1次元の質点が位置\(x=0\)にいるとしても、そのときの速度によってその後の運動は多種多様で決めきれないことではないでしょうか。
これを解決するのが「位相空間」です。位相空間中の配置は、配位空間中の配置よりも多くの情報を持っているので、
位相空間は配置が与えられればそのあと次の時刻での運動が決定してしまうという特殊な空間
であるわけです。位相空間の詳しい扱い方については、少し長いのでこちらで説明しています。
4 ポアソン括弧
次に、ポアソン括弧について、これは次のように定義されます。
定義3.6(ポアソン括弧の定義)
一般化座標\(\boldsymbol{q}\)、一般化運動量\(\boldsymbol{p}\)および時刻\(t\)の関数\(A(\boldsymbol{q},\boldsymbol{p},t)\)と\(B(\boldsymbol{q},\boldsymbol{p},t)\)について、
$$
\{A,B\} \equiv \sum_{i=1}^N \left( \frac{\partial A}{\partial q_i}\frac{\partial B}{\partial p_i} – \frac{\partial B}{\partial q_i}\frac{\partial A}{\partial p_i} \right)
$$として、ポアソン括弧\(\{ A,B\}\)を定義する。
これが定義です。これだけみてもまだ使いどころが思いつかないかもしれませんが、一つの使い方としては、\(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p},t\)の関数の時間微分を、次のように簡単に書けるようになりますよ。
系3.7
一般化座標\(\boldsymbol{q}\)、一般化運動量\(\boldsymbol{p}\)および時刻\(t\)の関数\(A(\boldsymbol{q},\boldsymbol{p},t)\)について、以下が成り立つ。
$$
\frac{dA}{dt} = \{ A,H \} + \frac{\partial A}{\partial t}
$$
系3.7の証明
一般化座標\(\boldsymbol{q}\)、一般化運動量\(\boldsymbol{p}\)および時刻\(t\)の関数\(A(\boldsymbol{q},\boldsymbol{p},t)\)について、時間による全微分をすると、
$$
\frac{dA}{dt} = \sum_{i=1}^N \left( \frac{\partial A}{\partial q_i}\frac{d q_i}{d t} + \frac{\partial A}{\partial p_i}\frac{d p_i}{d t} \right) + \frac{\partial A}{\partial t} = \sum_{i=1}^N \left( \frac{\partial A}{\partial q_i}\frac{\partial H}{\partial p_i} – \frac{\partial A}{\partial p_i}\frac{\partial H}{\partial q_i} \right) + \frac{\partial A}{\partial t} = \{ A,H \} + \frac{\partial A}{\partial t}
$$とかけるので示された。ただし、1つ目の等号は合成関数の微分、2つ目の等号は正準方程式、3つ目の等号はポアソン括弧の定義を用いている。□
これより、とくに関数\(A(\boldsymbol{q},\boldsymbol{p},t)\)が時刻\(t\)を直接の変数として含まない場合は、\(\frac{dA}{dt} = \{ A,H \} \)というように、時間微分をポアソン括弧だけでかけることになります。
また、ハミルトン力学で原理とした正準方程式もポアソン括弧で次のようにかくことができます。
$$
\dot{p}_i = -\frac{\partial H}{\partial q_i} = \sum_{j=1}^N \left( \frac{\partial p_i}{\partial q_j}\frac{\partial H}{\partial p_j} – \frac{\partial H}{\partial q_j}\frac{\partial p_i}{\partial p_j} \right) = \{ p_i,H \}
$$$$
\dot{q}_i = \frac{\partial H}{\partial p_i} = = \sum_{j=1}^N \left( \frac{\partial q_i}{\partial q_j}\frac{\partial H}{\partial p_j} – \frac{\partial H}{\partial q_j}\frac{\partial q_i}{\partial p_j} \right) = \{ q_i,H \}
$$とりあえず、このように今まで扱ってきた数式の様々な部分をポアソン括弧の形式で書けることが分かりました。ただもちろん、使いどころは記法の簡略化だけではなく、
ポアソン括弧は、ある物理量\(B\)を生成子とする無限小変換によって、物理量\(A\)はどう変化するかを表す。
ポアソン括弧は、物理量\(A\)が時間発展に対して保存するかを判定する。
ポアソン括弧は、物理量\(B\)を生成子とする変換と物理量\(A\)を生成子とする変換が独立しているかを判定する。
ポアソン括弧は、ある変換\((\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}) \rightarrow (\boldsymbol{Q}, \boldsymbol{P})\)が正準変換であるかを判定する。
というような物理的意味ももっています。これについても少し長いのでこちらで説明しています。
5 正準変換
はじめに、解析力学は「座標変換に対して数式が保たれる」という強みがあることをお伝えしました。実際にハミルトン形式でも、ラグランジュ形式のときと同様、位置を表す座標\(\boldsymbol{q}\)の間の変換\(\boldsymbol{q} \rightarrow \boldsymbol{Q}(\boldsymbol{q})\)に対して、正準方程式は変わりませんよね。
では、この議論を発展させて、運動量を表す座標\(\boldsymbol{p}\)を含めた座標変換\((\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}) \rightarrow \Big(\boldsymbol{Q}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p},t), \boldsymbol{P}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p},t) \Big)\)を考えてみましょう。このとき正準方程式が保たれるような座標変換、つまり、
もとの変数\((\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p})\)から新しい変数\((\boldsymbol{Q}, \boldsymbol{P})\)への座標変換であって、\(i=1,2,…,N\)に対して正準方程式
$$
\dot{Q}_i = \frac{\partial K}{\partial P_i}, \qquad \dot{P}_i = -\frac{\partial K}{\partial Q_i}
$$を成り立たせるような新しいハミルトニアン\(K(\boldsymbol{Q}, \boldsymbol{P}, t)\)が存在する座標変換
はどういう座標変換なのか、というのがこの節のモチベーションです。具体的な条件については長いので、こちらで解説しています。
6 拘束系への拡張
拘束系のことは、第2章5節でラグランジュ力学における扱い方を話しました。そのときのラグランジアン\(L(\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}, t)\)をルジャンドル変換した、ハミルトニアン
$$
H(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}, t) = \sum_{i=1}^N p_i \dot{q}_i(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}, t) – L \Big(\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}, t), t \Big)
$$に対して、正準方程式が成立するというだけです。
7 連続体への拡張
これについては、少し長いのでこちらで説明しています。
8 具体的なハミルトン力学の適用例
解析力学を学ぶときは、やはり抽象的な定式化だけを続けていると何をやっているかわからなくなりがちなので、具体例を通してその威力を実感することが大切になると先ほどもいいました。
そこで例として、ハミルトン力学の適用をいくつか紹介します。
古典力学における自由な剛体の運動について、ハミルトン力学を適用した議論をこちらで説明しています。
第4章―ハミルトン・ヤコビ方程式
1 ハミルトン・ヤコビ方程式
ラグランジュ形式、ハミルトン形式に次ぐ、解析力学の新たな形式として「ハミルトン・ヤコビ方程式」があります。名前だけ聞くと難しそうかもしれませんが、これはハミルトン力学の正準変換に工夫を加えたものにすぎません。次の定理を見てください。
定理4.1(ハミルトン・ヤコビ方程式)
力学系の一般化座標を\(\boldsymbol{q}=(q_1,q_2,…,q_N)\)、一般化運動量を\(\boldsymbol{p}=(p_1,p_2,…,p_N)\)、系に対応するハミルトニアンを\(H(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p},t)\)、以下の1階非線形偏微分方程式
$$
H(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p},t) \Big|_{\boldsymbol{p}=\nabla_{\boldsymbol{q}}S} = -\frac{\partial S}{\partial t}
$$の解に含まれる独立な\(N\)個の積分定数を\(\{P_i\}_{i=1}^N\)、その解を\(S(\boldsymbol{q},\boldsymbol{P},t)\)とかくこととする。
このとき、\(p_i = \partial S(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{P}, t)/\partial q_i\)により関数\(\boldsymbol{P}(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p})\)の表式を定めるならば、\(N\)個の量\(\{\partial S/\partial P_i\}_{i=1}^N\)は時間変化しない定数である。
ここで大事なのは、式が、未知の関数\(S\)に対するたった1つの偏微分方程式しかないために、問題を代数的に処理しやすいということです。具体的に、ハミルトン・ヤコビ方程式を用いて問題を解く手順は、
- ハミルトニアン\(H(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}, t)\)を記述する。
- 1階非線形偏微分方程式(ハミルトン・ヤコビ方程式)
$$
H(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p},t) \Big|_{\boldsymbol{p}=\nabla{\boldsymbol{q}}S} = -\frac{\partial S}{\partial t}
$$の解に含まれる独立な\(N\)個の積分定数を\(\{P_i\}_{i=1}^N\)として、完全解\(S(\boldsymbol{q},\boldsymbol{P},t)\)を求める。 - 新しい座標\(Q_i= \partial S/\partial P_i\)は時間変化しない定数になるため、\(N\)本の式
$$
Q_i = \frac{\partial S(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{P}, t)}{\partial P_i} \quad (i=1,2,…,N)
$$はもはや微分方程式ではなく、\( \{ q_i \}_{i=1}^N \), 定数\( \{ P_i \}_{i=1}^N \), 定数\( \{ Q_i \}_{i=1}^N \), \(t\)を結ぶ単なる代数方程式であるので、これを元の座標\( \{ q_i \}_{i=1}^N \)について解くことで、時間\(t\)の関数としての軌跡\(q_i(t)\)が得られる。
というような感じです。たしかに数式を”解く”機会は、手順2の偏微分方程式についての1回だけだということが分かるかと思います。
なお、定理の発想や証明など、詳しいことは長くなるのでこちらで説明しています。
2 具体的なハミルトン・ヤコビ方程式の適用例
何度も言いますが、やはり解析力学を学ぶときは、やはり抽象的な定式化だけを続けていると何をやっているかわからなくなりがちなので、具体例を通してその威力を実感することが大切になります。
そこで例として、ハミルトン・ヤコビ方程式の適用をいくつか紹介します。
以上、解析力学を1記事で概観してみました。お疲れさまでした。

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